VOCALISE 15 番外編 クリスマス


Vocalise ヴォカリーズ 番外編  

クリスマス (ペーパーACT.009より転載)





「明日、最上さん・・・の誕生日なんですけど、さすがにクリスマスに家に呼んだら、色々、会社的にまずいですか?」 と蓮は社に言った。

 いやいやいやいや、あの、それってオレに確認取ること?と、社は思って、赤面する。

「なんでオレに聞くんだ。普通、プライベートは本人に任せてます、だろ」

「・・・・じゃあ呼びますよ?さすがに今日明日ぐらいはオレも張られているかもしれないので・・・彼女に迷惑がかかったらと思っただけです」

と言ったから、社は「あれ?」と思った。

「もしかして、その、さ。喜んでいい訳?」

「彼女に聞いて下さい」 

蓮が舌をぺろっとだしたから、社はイラッとして、「明日もキョーコちゃん仕事なんだから時間だけは気にしろよ、お前だから大丈夫だとは思っているけど」 

と釘を刺した。 

蓮なりの、自分への報告なのだと社は思った。 


***** 


 仕事が終わったら、部屋まで手ぶらで来て、何も持ってこないで、と、蓮はキョーコに言った。

クリスマスにプレゼントも何も持たずに来いと言われても、とても困る。

せめてもの気持ちで、花だけ買う。 

キョーコが部屋に着いた時、蓮は手にミトンを持ってキョーコを迎えた。

「?」

「オレが作ってるんだ」 

と言った。

何かの食べ物のにおいがする。

「あの・・・お花だけ、買ってきました」

「手ぶらでいいって言ったのに」

「そういう訳には」

「じゃあ、できるまでリビングにいて待っていて。来ちゃダメだよ」 


と蓮は言った。 



――そわそわそわそわ・・・・そわそわそわそわ・・・・ 


 何も出来ないってものすごく居心地が悪いんですけど・・・・と、ひざを抱えて座るキョーコは思う。


蓮は戻ってこないし、テレビを見る気にもならない。 


お手伝いできないって意外とつらい!!と思ってしまう。 


仕方なく明日の仕事の台本を見る。


 読み始めて、一度役に入ってしまえば、時間などあっという間に過ぎた。


 明日の場面を脳裏に描いていると、すぅ、と、不覚にも寝てしまった。



「できたよ」

 と言って蓮が入ってきたとき、キョーコはぺたりと床に座って、ソファを枕に寝息を立てていた。

 それを見た蓮は、何とも癒されるような気がしてしまう。

 明日の台本が床に落ちている。それを拾ってテーブルに置く。

 額にかかる髪を蓮がそっとすいて、しばらく髪を撫でていると、キョーコがふっと目を覚ました。

ぼんやりとして、しばらくして、状況を理解し、髪に触れている蓮の手を目が見上げて、そしてそのまま赤面する。

「あの・・・・寝て・・・しまいました・・・・」

「うん。かわいかったからしばらく見てた」

 蓮はにっこり、と笑って言う。

「・・・・・(どうしてこのヒトはそういう事をさらっと言うの!)」

「何か?」

「・・・・いえ・・・」

 蓮はにこにこ、と笑って、言った。

「ごはんができたよ」

 キョーコは、ありがとうございます、と言った。

「力作だよ?」

 と言った蓮の料理は、とても綺麗に並べられた面白料理で、キョーコは食べながらおかしくておかしくて、おなかを抱えて笑いながら、それでも食べた。

「オレの力作」

 と蓮はやっぱり自信満々に言うから、キョーコは耐えられなくて、口にしていたスープを少し吹いた。

「ひどいじゃないか」

「違うんです、どうやってこの味をこれでよしと決めたのかって思うとっ・・・おかしくって・・・くっくっっ・・・・」

「味見してない。書いてある通りに入れたんだけど、あれもこれもって入れすぎたかも。今度は少しずつやってみるよ」

 キョーコは散々笑って、そして、「ありがとうございます、とっても楽しいクリスマスにして下さって」と言った。

 サラダしか食べていなかった蓮は、手許のスープを食べてみて、「確かにこれはミラクルな味だね」と笑った。

 キョーコは蓮に言った。

「私のために、作ってくださってありがとうございます」

 蓮は言った。

「気持ちだけだけどね、ミラクル料理」

「きっと、お鍋の上に、いたずら妖精が来たんです、きっとそう」

「そうかも。きっと君の誕生日を祝いに来たんだよ」 

「また、作ってくださいね?すごく嬉しかったから」

「ミラクルだけどね?」

「妖精が作る料理なら、どんなものでも美味しく食べます!」

 キョーコはぽん、と胸をこぶしで叩く。

「妖精味ならいつも食べたい!」

 キョーコが満面の笑みで言う。

 蓮が笑う。

 キョーコが笑う。

「誕生日、おめでとう。キョーコちゃん」

 蓮は特大のケーキを目の前において、

「スポンジはケーキ屋さんが作ったし、生クリームはパックに入っていたし、砂糖はちゃんと計った。フルーツは切っただけ。きっと美味しいはずだよ?」

 と言って笑った。

「一緒に、食べられるだけで、とてもしあわせ」

 と、キョーコは蓮に言ったから、蓮も、

「一緒にいられるだけで、しあわせ」

 と答えた。

「サンタクロースは来なくてもプレゼントなんて無くても、とても、しあわせ」

 キョーコは蓮にそう言ったけれども、キョーコは蓮に、キスのプレゼントを贈った。 だから、蓮は、

「オレは明日の朝きっと一番欲しいプレゼントが枕元に置いてあるはずなんだ」

 と言って、キョーコの頬に手を置いた。

「じゃあ私も」

 とキョーコも、答えた。

 すりすり、と蓮はキョーコの頬を撫で続ける。時々首筋に指が這って、ひゃ、とキョーコが言った。

「相変わらずここは弱いよね」

 蓮が笑う。キョーコも笑う。

「クリスマスプレゼントは何がいいかなって考えたんだけど、一緒に人形にでもなって、買い物デートするのも喜ぶかなって思って」

 と蓮が言うから、キョーコは、物はいりませんと答えた。

そして、

「これが欲しい」

 と言って、キョーコは蓮を、ぎゅ、と抱きしめた。

「そんなのでよければ一生どうぞ」

 と蓮が言うから、キョーコがじっと蓮を見つめる。

「・・・・・・・・」

「そのままの意味だよ。オレの言葉、今は信じる?」

「え」

「オレの時間、一生分、クリスマスプレゼントでよければ君にあげる」

「・・・・えええっ」

「・・・・・・捨てようとしていた時間を・・・君が救ってくれたんだから・・・だから元々全部君のもの」

「・・・・敦賀さん・・・・・」

 キョーコは一瞬悲しそうな顔をしたから、蓮は一度にこり、と笑って、

「オレを生かすも殺すも君次第。オレは君の下僕でもいいんだよ?」

 きゅらりん、と、極上の笑顔を作って言った。

 何その下僕宣言。

 普段散々キョーコを弄ぶ蓮に限って本気であるはずもなく。

「・・・・・その笑顔には裏があるんですっ・・・騙されませんっ」
 
 ぷくぅ、と、口を膨らます。
 
 もちろん、蓮の優しさにはキョーコも気づいている。
 
 蓮が吹き出して笑う。

「ウソは言ってないよ」

「・・・・・・もう・・・・。・・・でも、プレゼントに、これが欲しい」
 
 キョーコは蓮の体に額をつけて、蓮の手を握る。
 
 蓮はキョーコをぎゅう、と抱きしめて、「気に入るか分からないけど」と蓮が言うから、キョーコは首をかしげる。

 蓮は横のサイドボードの引出しから箱を一つ取り出して、キョーコの首元にネックレスをつけた。

 ペンダントヘッドにシンプルなプラチナリング。
 
 大きなダイヤが一粒埋め込まれている。
 
 キョーコが蓮を見て、ペンダントを見て、を繰り返す。

「・・・指にはめてみてごらん」
 
 と言うから、胸元のリングをそのままどの指にはめても、チェーンがあるのに、ぶかぶか。

「オレのもの」

「?」

「・・・・・お守りに、持っていて・・・・君は無防備すぎるから」

 キョーコは静かに頷く。

 嬉しくて、ちょっとくすぐたい。

 胸元にいつも男物の指輪があるのを想像する。

 どう思われるのかと思うとなんだかとても気恥ずかしい。
 
 キョーコが今、誰にも見せない、蓮にしか見せない表情をする。

 蓮はそれだけでもういいと思う。

 可愛くて思わずキョーコの髪を撫でた。

「それは一生返さなくていいから、オレの時間の代わりに持っていて」
 
 蓮がキョーコをそっと抱き寄せる。
 
 キョーコが蓮をそっと抱きしめる。

「一生大事に使います」

 と、キョーコが蓮の腕の中で言った。

「オレの誰にも見せない時間は、今、君で出来てる。一緒にご飯を食べているだけでしあわせ。だからお礼に、時々また妖精料理をつくるから食べてね?」

 蓮はにこにこ、と笑ってキョーコに言うから、キョーコも同じような笑顔で言う。

「・・・・・それは、すごくしあわせ!」


 蓮とキョーコはとても可笑しそうに笑う。


 そして強く互いを抱きしめた。


【FIN】






2014.12月作成
2019.1.31掲載



*VOCALISEとDaydreamを同時発行した時の2015年1月発行の
ペーパー009に載っているものです。